運用の勉強をしていくと、あらゆる金融知識が身に付いてきます。日本の情勢から世界経済、金融政策、企業業績まで、ニュースの見方が変わり、相場を立体的に捉えられるようになります。これは、投資を行う上で非常に大切なことです。ただ、運用の世界において、ひとつ大きな誤解があると私は感じています。それは、「金融知識が豊富=運用が上手」ではないということです。

知識が増えるほどノイズも増える

金融知識を身に付けると、相場に対して自分なりの予想を立てられるようになります。これは悪いことではありません。しかし、その一方で、知識が増えるほど、ノイズも同時に増えていきます。すると「こうなるはずだ」「この動きはおかしい」といった考えが強化され、相場の流れそのものではなく、自分の予想を正当化する材料探しに意識が向いてしまいます。結果として、相場のトレンドとは逆方向のポジションを取り続けてしまう、という状況に陥りやすくなります。特に、勉強熱心で真面目で分析好きな人ほど、この罠に深くハマりやすいと感じています。

私自身が経験した逆行ポジション

これは、まさに過去の私自身の姿です。相場が力強く上昇している局面で「ここまで上がれば、いずれ調整が来るはずだ」と、慎重な予想を立て続けていました。目の前では指数も個別株も次々と高値を更新しているにもかかわらず、「まだ早い」「ここは危ない」と様子見を続け、気づいた時には相場は遥か上へ行ってしまっていました。結果として、大きな上昇トレンドにほとんど乗れず、数多くのチャンスを逃しました。当時の私は、自分の金融知識や相場観にそれなりの自信を持っていました。しかし今振り返ると、その自信こそが、最大の足かせだったと感じています。

自分の考えの正しさを守ってしまう罠

知識が増えるということは、選択肢が増えるということでもあります。その結果、自分に都合のいい情報だけを拾い集め、無意識のうちに「自分の予想は正しい」と強化してしまいます。これが、知識量が豊富=ノイズ量も豊富という状態です。相場の本当の流れよりも、自分の考えの正しさを守ることが優先されてしまう。この状態に陥ると、運用成績は驚くほど安定しなくなります。

予想ではなくトレンドに従う

こうした経験を経て、私は相場予想を、基本的に行わなくなりました。仮に行ったとしても、それは整理のためであり、売買判断の軸にはしません。現在、私が最も重視しているのは、予想ではなくトレンド、つまりその場の流れに付いていくことです。相場は常に正解を先に示してくれています。上がっているなら上。下がっているなら下。そこに、自分の意見や予想を無理にねじ込む必要はありません。

「周りの意見に流されている気がする」「情報を集めるほど、迷いが増えている」と感じたときは、ノイズが入り込みすぎているサインかもしれません。そのようなときは、一度情報から距離を置き、シンプルにチャートと向き合う。それだけで、相場の流れが驚くほどクリアに見えてきます。相場で迷うのは、才能がないからではありません。むしろ真剣に学び、考えてきた証拠です。だからこそ、一度予想を手放し、流れに身を任せてみてください。それだけで、運用は驚くほどシンプルになり、メンタルの負担も大きく軽減されます。

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代表取締役 下田祐樹
下田 祐樹(株式会社TODOKERU 代表取締役)
野村證券にて17年間、個人・法人の資産管理業務に従事した後、投資助言・代理業として独立。関東財務局長(金商)第3348号。著書『運用者の規律』ほか。プロフィール詳細