目の前に2つの銘柄に買いサインが点灯しているとします。同じセクターで似たような動きをしていますが、異なるのは変動率だけです。一方は値動きが大きく、もう一方は比較的穏やかである。このとき、どちらを選択するでしょうか。運用を行っていると、このような場面には必ず遭遇します。理論的に考えれば、不安な局面では変動率の低いもの、強気な局面では変動率の高いもの、という整理になります。しかし、理論通りに動かないのが運用の世界です。

変動率の罠とは何か

不安な局面であっても、結果的に変動率の高い銘柄の方が早く戻した、という経験は少なくありません。その経験が、次の判断に影響します。さらに人は、損失が含まれているときほど「早く改善したい」と考えます。その結果、値動きの大きい銘柄に魅力を感じやすくなります。つまり、リスクにリスクを重ねてしまうのです。気が付けば、ポートフォリオが変動率の高い銘柄中心になっている。私はこれを、変動率の罠と呼んでいます。

「わからない」を受け入れるということ

この罠を避けるために、私がまず受け入れる前提があります。どちらが正しいかは、誰にもわからないということです。この「わからない」を受け入れると、わからない選択で、わざわざ過度なリスクを取る必要はないという考えが自然と生まれます。ここで言う「過度なリスク」とは、検討している2銘柄の変動率のことではなく、あくまで資産全体の変動率です。資産全体の変動率がすでに高い状態で、さらに値動きの大きい銘柄を組み入れれば、全体の振れ幅は一層拡大します。これはリスク管理の観点からは慎重に扱うべき局面だと考えています。

資産全体とのバランスで判断する

そのため私は、資産状況によって選択を変えるようにしています。資産全体の変動率が高い場合は低い銘柄を選び、資産全体が落ち着いている場合は高い銘柄を選ぶ、あるいは半分ずつ試し、値動きの強い方に絞る。銘柄単体ではなく、資産全体とのバランスで判断するということです。

根底にある考えはシンプルです。ひとつやふたつのトレードで、資産全体のパフォーマンスは大きくは変わりません。もちろん、一つ一つの判断の積み重ねが結果を作りますが、その一つに執着しすぎると、全体のバランスを失います。目の前の銘柄ではなく、一段引いた位置から資産全体を見る。運用とは、銘柄選択ではなく、リスク配分の連続だと私は考えています。この視点を持つことで、運用の質は確実に安定していくはずです。

銘柄単体ではなく資産全体の変動率という視点を運用に取り入れたい方は、当社のサービスのご案内をご覧ください。投資顧問契約が初めての方ははじめての方へをご確認ください。

代表取締役 下田祐樹
下田 祐樹(株式会社TODOKERU 代表取締役)
野村證券にて17年間、個人・法人の資産管理業務に従事した後、投資助言・代理業として独立。関東財務局長(金商)第3348号。著書『運用者の規律』ほか。プロフィール詳細