運用の世界では、「これは常識」「これだけは守れ」といった形で語られる言葉が数多く存在します。今日は、その中でも個人的に違和感を持っている言葉について、私なりの考えを書いてみたいと思います。

「買い値より低い価格での押し目買いは絶対にNG」

投資本を何冊か読んだことがある方であれば、一度は目にしたことがある言葉かもしれません。平均コストを引き下げる目的での買いは、傷口を深めるだけになるため、絶対にやってはいけない。という考え方です。確かに、トレンドが弱い銘柄や、下落基調にある銘柄に対して「安くなったから」という理由だけで買い増す行為は、リスクを高めやすいです。そのため、この考え方自体は決して間違いではありません。

ただ、この言葉をそのまま鵜呑みにすると、ある疑問が浮かびます。それなら、積み立てNISAなどでよく使われる「ドルコスト平均法」はどうなのか、という点です。高い時には少なく、安い時には多く買い、購入単価を平準化する。この考え方自体は、長期運用において非常に合理的です。

つまり、「買い値より低い価格での押し目買いは絶対にNG」という言葉の本質は、トレンドが弱い銘柄への押し目買い、ましてや単なる平均コスト引き下げ目的の買いは避けるべき、という意味だと私は捉えています。結局のところ、ここに絶対的な正解はなく、ケースバイケース。この言葉に縛られ過ぎて柔軟な判断ができなくなる方が、むしろリスクだと感じています。

「経済指標で相場を読む」

もう一つ、よく耳にするのがこの言葉です。経済指標の結果を見て、相場の方向性を判断する。確かに、スキャルピングなどの超短期売買においては有効なケースもあります。ただ、中長期の運用において、経済指標ほどノイズが多い材料はないと私は感じています。

例えば「今月の雇用統計は悪い」という予想が市場に広がったとします。すると市場はその情報を織り込み始め、発表前にはすでに"悪い結果前提"のポジションが積み上がった状態になります。この状態は機関投資家にとって非常に仕掛けやすい環境です。シーソーが一方向に大きく傾いた状態でイベントを迎えるため、結果をきっかけに大きな揺さぶりをかけやすくなるからです。そのため、経済指標イベント前後の値動きは、純粋な経済状況というよりもポジション調整による価格変動と捉えた方が、実態に近いと考えています。

健全な上昇トレンドとは

私が最も健全だと感じるのは、市場予想通りの内容が発表されたあと、それでも株価が上昇する展開です。この場合、相場の内部エネルギーが強く、トレンドがしっかり上を向いているケースが非常に多いと感じています。経済指標の良し悪しよりも、「それを受けて市場がどう反応したか」の方が、はるかに重要だということです。

どちらも、使い方を間違えなければ有効ですが、そのまま受け取ってしまうと判断を誤りやすくなる側面も持っています。大切なのは、言葉を覚えることではなく、その背景と意図を理解することです。

相場の「常識」との向き合い方も含め、当社の運用の考え方はサービスのご案内で詳しくご紹介しています。ご相談はお問い合わせから承ります。

代表取締役 下田祐樹
下田 祐樹(株式会社TODOKERU 代表取締役)
野村證券にて17年間、個人・法人の資産管理業務に従事した後、投資助言・代理業として独立。関東財務局長(金商)第3348号。著書『運用者の規律』ほか。プロフィール詳細