運用は、つらい。疲れる。しんどい。そう感じている方は少なくないと思います。こんなに苦しい思いをしているのに、成果が出ない。今日は、その「心の振れ幅」について考えてみたいと思います。運用成績は技術で決まるのでしょうか、それとも心で決まるのでしょうか。おそらく多くの方が「どちらも大事」と答えると思います。ただ、実証研究を見ると、技術以上に"心の扱い方"が結果に影響していることがわかります。

自信過剰が売買を増やす

米国の研究者Brad BarberとTerrance Odeanは、数万件の個人口座データを分析しました。結果は明確でした。取引回数が多い投資家ほど、リターンは低い。さらに、自信過剰傾向が強い投資家ほど売買回数が増え、結果としてパフォーマンスを落としていたのです。興味深いのは、「情報を多く持っている人」ではなく、「自分の判断を過信する人」が過剰売買に陥っていた点です。技術で負けたのではなく、心の揺れが売買を増やし、リターンを削っている。そんな構図が見えてきます。

損失を受け入れる心理耐性

では逆に、自信がない場合はどうでしょう。ここで有名なのが、Daniel Kahnemanのプロスペクト理論です。人は利益よりも損失を強く感じる。その結果、含み益は早く確定し、含み損は持ち続ける。この傾向は多くの市場で確認されています。損切りが遅れる投資家ほど、長期的な成績は悪化しやすい。ここでも問題は分析力ではなく、損失を受け入れる心理耐性です。自信過剰も、不安も、どちらも心の揺れ幅が大きい状態と言えます。

心が行動を歪ませる

誤解してはいけないのは、心が直接リターンを生むわけではないということです。強気だから儲かるわけではない。弱気だから負けるわけでもない。ただ一つ言えるのは、心は行動を歪ませる。そして、その歪みがパフォーマンスを削っていく。自信過剰は売買を増やし、恐怖は損切りを遅らせ、焦りはルールを破らせる。この歪みが、最終的なリターンに表れます。私は、長期パフォーマンスを分けるのは予測精度よりも「感情の揺れ幅」だと考えています。運用は命の次に大事とも言われるお金を扱う行為であるため、人は無意識に完璧な判断を自分に求めてしまいます。けれどまず受け入れるべきなのは、完璧な判断など存在しないという事実です。

運用は、しんどい。つらい。疲れる。それは間違いありません。しかし、そこで終わらせないことです。相場で生き残るとは、大きく当てることではなく、投資を継続できる状態を守ること。これは、自分の心を守ることでもあります。そのため、自分を責めない設計をつくること、感情で崩れない枠組みをつくること。技術以上に、こちらの方がはるかに重要です。そして、その設計ができるのは、自分自身の第一の理解者である自分だと私は考えています。

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代表取締役 下田祐樹
下田 祐樹(株式会社TODOKERU 代表取締役)
野村證券にて17年間、個人・法人の資産管理業務に従事した後、投資助言・代理業として独立。関東財務局長(金商)第3348号。著書『運用者の規律』ほか。プロフィール詳細