運用を行っていると、「この銘柄だけはいい会社だから、長く持ちたい」そう思う瞬間があります。これは決して特別な感情ではなく、多くの投資家が、ごく自然に抱く感覚です。この心理は、保有効果と呼ばれています。保有効果とは、自分が持っているものを、持っていないときより高く評価してしまう心理のことです。たとえば、思い入れのある銘柄を保有しているとき、その銘柄を手放そうとした瞬間に「もったいないかもしれない」という痛みが生じます。それは、損失への恐怖というよりも、手放すこと自体への抵抗感に近いものです。
執着が生む都合のいい理由
冷静に考えれば、話はとても単純です。一度手放して、その後もなお良いと判断できるのであれば、また買えばいいだけです。ですが「手放す」という行為には、理屈とは別のところで、心が強く反応します。人は何かに執着し始めると、必ず自分にとって都合のいい理由を探し出します。頭の中に「きっと〇〇だろう」「〇〇なはずです」こうした言葉が多く現れ始めたときは、一度立ち止まった方がいいサインです。それは分析ではなく、執着を正当化するための言い訳になっている可能性があります。
執着から生まれる成果は、のちにまた新たな執着を生みます。うまくいった経験ほど、次の判断を強く縛ります。そして、自分の円の外にある取引、つまり自分でコントロールできない成果に手を伸ばし始めたとき、判断は少しずつ歪んでいきます。
気づけるかどうかが主導権を分ける
銘柄を手放すことは、その企業を否定することではありません。また、これまでの判断が間違っていた、という意味でもありません。その時点での条件が変わった、ただそれだけのことです。執着そのものを、なくすことはできません。人である以上、それは自然な感情です。大切なのは「いま自分は執着しているかもしれない」と気づけるかどうかです。その気づきがある限り、判断の主導権は、まだ自分の手の中にあります。
相場で必要なのは、完璧な判断ではありません。感情と一定の距離を保ち、淡々と、条件に従って行動できるかどうか。執着との付き合い方は、運用の成否を静かに分ける、大切な要素のひとつです。
